グラフィックデザイナー、森敬太 氏に、ご自身が自主制作出版している漫画雑誌、『ジオラマ』『ユースカ』の印刷を協友印刷に依頼している理由と、その評価について詳しく聞きました(写真左は営業 菊地)。
漫画雑誌や単行本の印刷を依頼
- 森様の協友印刷の活用状況を教えてください。
協友印刷には、私が主宰している自主制作漫画雑誌、『ジオラマ』『ユースカ』、そして漫画単行本の印刷を依頼しています。詳細は次のとおりです。
雑誌名、書名 | 仕様 | 備考 | 表紙 |
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『オチとは』単行本 | 175mm * 105mm。118頁。 | 表紙はボール紙。 白インク、蛍光色、部分ニス引きなど活用。 |
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『ジオラマ』第3号 | A5版、184ページ | 表紙の紙は『ヴァンヌーボVGスノーホワイト』 本文の紙は『モンテシオン』 |
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『ユースカ』第1号 | A5版、204ページ | 表紙の紙は『キャピタルラップ』 本文の紙は『モンテシオン』 |
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『ユースカ』第2号 | A5版、192ページ | 表紙の紙は『キャピタルラップ』 本文の紙は『モンテシオン』 |
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『ユースカ』第3号 | A5版、216ページ | 表紙の紙は『キャピタルラップ』 本文の紙は『リンデンコミック』 |
最初、『ジオラマ』は別の格安印刷会社に依頼していました。
ただし、その会社は格安の分、安定した品質の印刷は期待できなかったので、途中から協友印刷に切り替えました。以来、『ジオラマ』『ユースカ』の印刷は、協友印刷だけに依頼しています。
印刷で気を使った点
- 雑誌『ジオラマ』、『ユースカ』の印刷で、気を使った部分について教えてください。
紙の選定には特に気を使いました。大きくは次の3点です。
・「本文の紙 ~ 厚さ、軽さ、コストを考慮して選定」
・「表紙の紙 ~ 遊び心優先。包装に使われる用紙を採用」
・「写真頁の紙 ~ 「安くて味わいのある紙」を採用」
・「マンガページの印刷 ~ 白と黒の中間色がきれいに出せるよう工夫」
本文用紙の工夫
- 順番にお聞きします。気を使った点1.「本文の紙は厚さ、軽さ、コストを考慮して選定」とは。
『ジオラマ』の4号までは「フロンティタフ」という紙を使っていました。
フロンティタフには「分厚い」、「柔らかい」、「軽い」という特色があり、本全体を厚くしたいときに良い紙です。以前、昼間の仕事で使ったことがあり、いい感じだったので自分の雑誌でも使いたいと思いました。
しかしユースカの1号、2号では「モンテシオン」という紙に切り替えました。これは協友印刷から「モンテシオンは、フロンティタフと同等品だけど価格は割安です」という情報提供があったからです。これは有り難かったですね。
なおユースカ3号からは、予算の都合もあり、「リンデンコミック」という、漫画単行本で多用される一般的な紙に切り替えました。
カナ題字、号数表示、英文縁取りなどで特色(銀)を使用
表紙の工夫
- 気を使った点 2.「表紙は遊び心優先。包装に使われる用紙を採用」とは。
表紙で使っているのは「キャピタルラップ」という紙です。本来は包装用紙です。
これを採用した理由は、紙に独自の光沢があり、色の乗り方が楽しいからです。また、包装紙ならではの「薄っぺらく、安っぽい印象」も、そこがかえって格好良いと思いました。
ただ「キャピタルラップ」は一般的な表紙用紙に比べ、薄く反りやすい紙であるため、一般書店で販売される書籍ではまず採用されません。提案したとしても、本が痛みやすいからという理由で出版社から断られます(そういう紙が自由に使えるのは自主制作出版の楽しみですね!)。
『ユースカ』の表紙はフルカラー+特色(銀)で印刷しています。表面にはニスを塗布しています。これは紙の強度確保(摩擦に強くする)と、色落ち防止が目的です。
カラー写真ページの工夫
- 気を配った点3.「写真頁の紙 ~ 「安くて味わいのある紙」を採用」とは。
見開きの写真頁では、「アドニスラフ」のブル-の用紙を使いました。これ、めちゃくちゃ安いけれど「いい味」の紙です。この写真の良さが上手く表現できる紙です。
マンガページの工夫
- 気を配った点4.「マンガページの印刷 ~ 白と黒の中間色が出せるよう工夫」とは。
最近はPCで作画をされる作家が多いので、昔のように白黒ではなく、グレースケールの原稿も多いです。ユースカでは薄墨を使われる作家も多いです。白と黒の中間色を滑らかに印刷表現するのは手間がかかるんです。
協友印刷と連携して、微妙な濃淡が表現できるよう、気を配りました。
単行本の表紙の工夫
- 単行本、『オチとは』で工夫した点を教えてください。
『ジオラマ』『ユースカ』は雑誌なので、印刷方法や紙はコストなど「現実論」を優先させて選びましたが、『オチとは』は単行本なので、「ものとしてのおもしろさ」を優先し、様々な趣向を凝らしました。
まず表紙にはボール紙を使いました。さらにボール紙のオモテ面(白い方)ではなく、裏面(灰色でザラザラの方)に印刷しました。
ボール紙特有のザラザラした感触といい感じの灰色を活かしたかったので、表紙は「部分印刷(=部分色塗り)、部分ニス引き」で仕上げました。
具体的には表紙の中央の灰色のところ(※ 図中矢印青)は、何も色を塗らず、ボール紙本来の風合い、色合いを残しました。この箇所にはニス引きもしていません。
逆に、一見して普通の紙の色に見える、周囲の白い部分(※ 図中矢印緑)の方が、わざわざ白く色を塗った箇所です。ここにはニス引きもしています。
表紙色としては、蛍光ピンク、蛍光黄色、蛍光紺色など特殊な色を多用しました。さらに刷り上がり後、表紙全体に紫外線(UV)を当てています。紫外線を当てるとインクが一瞬で硬化するので発色が良くなるからです。
協友印刷には、UV印刷の設備があったのでこれができました。普通の印刷会社だと無いところも多いのですが。
また表紙の折り返しは、表紙を本文より長くして内側に折り込む「ガンダレ製本」「小口折り」と呼ばれる特殊仕様で作っています。
この様々な趣向を凝らした『オチとは』の印刷を依頼したことが、協友印刷とのおつきあいの始まりでした。
最初は格安の印刷会社を活用
- 『ジオラマ』『ユースカ』の印刷会社として協友印刷を選んだ経緯を教えてください。
『ジオラマ』の1号、2号では、とにかく格安の印刷会社を探しました。しかし、そうして見つけた会社は、値段は確かに格安で良いのですが、その分、印刷上の細かい注文をするのは無理な雰囲気がありました。
そこで、思い通りの表紙を作りたいと意気込んだ単行本 「オチとは」の印刷については、別の会社を探すことにしたのです。
30社に問い合わせてみたが…
- その時はどうやって印刷会社を探したのですか。
自分の希望を仕様書にまとめて、ネットで見つけた印刷会社に片端から問合せました。少なくとも30社には声をかけています。
しかし、どの印刷会社も『オチとは』の特殊な印刷仕様に対し、「ウチではできません」とギブアップするか、あるいは「こんなの普通やりませんよ」と横柄に断ってくるか、あるいは驚くほど高額の見積もりを出してくるか、という対応でした。
「こんな印刷、無理。できるわけない」と言ってきた印刷会社もありました。しかし『オチとは』の印刷仕様は、一見、特殊に見えても、すべて実現可能なものばかりです。それに対し無理だというのでは、その印刷会社の経験不足、技術不足を露呈することになるのですが。
恐縮な言い方ですが、世の中には、チラシ類ならともかく「本」の印刷となると、知識不足、勉強不足の印刷会社が多いのだなと実感しました。
そんな中、唯一、まともな話ができたのが協友印刷だったのです。
協友印刷に依頼した後、もう一度、格安印刷会社を使ったが…
- 「まともな対応」とは具体的には。
何か特別な感動対応があったという話ではなく、ただ単に「普通に話ができる」、「こちらが求める印刷仕様を的確に理解してくれる」、「まともな見積もりが出てくる」というだけの話です。でも、その「普通の対応」をしてくれたのは、30社中で協友印刷だけでした。
こうして『オチとは』の印刷は、協友印刷に依頼することを決定。実際の納品物も、じゅうぶん満足のいく仕上がりだったので、雑誌『ジオラマ』3号でも印刷を依頼することにしました。これも納得のいく出来映えでした。
- その後、ずっと協友印刷にご依頼いただいているということでしょうか。
いえ、実は続く『ジオラマ』4号では、コストの安さの魅力が捨てきれずに、もう一度、格安の印刷会社を使いました。
ただ、この時は印刷事故が起きて大変なことになったのですが。
印刷事故で配本遅れ。全国100店舗にお詫び
- どんな事故が起きたのですか。
そのときは本の表紙と背表紙の間に、なぜかデータに無い黒い実線が入って印刷されてきたのです。
おそらく何かのアタリを付けるために仮に引いた線が、そのまま印刷されたのでしょうが、ブックデザイナーとしては許せるミスではありません。もちろん印刷し直してもらいましたが、しかしこの時は、それだけですみませんでした。
印刷をやり直したことで配本時期が大幅に遅れることになり、全国100の取扱店の皆様一店一店に、その連絡とお詫びをしなければならなくなったのです。このときは本当に大変でした。
この事故を契機に、「やはり格安印刷会社を使うのはリスクが高い」ということを再認識しました。それからは協友印刷ひと筋です(笑)。
協友印刷への評価
- 2年間、印刷を依頼してみての協友印刷への評価をお聞かせください。
印刷技術については当初の期待どおりです。『オチとは』の特殊な印刷、『ユースカ』の紙質のことなど、私のやりたいことを良く理解し、実現してくださることに、感謝しております。
そして、もう一点、私にとって非常に有り難いのが、「本の在庫を保管してくれて、かつ販売店への発送も代行してくれること」です。
在庫・発送代行サービスへの評価
- 具体的に、どのような点が良いのでしょうか。
もし『ユースカ』を自分で在庫管理するとしたら、自宅に段ボール箱150箱を持ち込んで、注文の度にいちいち自分で梱包して、宅配便を呼んで、土日であっても集荷を家で待ち続けて…という、非常な負担になります。
いま『ユースカ』は平日帰宅後の4時間と土日の一部を使って作っています。デザインや編集だけでも大変なのに、正直、集荷や管理のことで疲れたくありません。
そこを全部、代行してくれる協友印刷は本当にありがたいです。
先輩ユーザーとしてのアドバイス
- いま同人誌などマンガ雑誌の印刷会社を探している人に向けて、「先輩ユーザーとしてのアドバイス」などあればお聞かせください。
印刷会社からは、一式いくらの「簡易見積もり」ではなく、製版代、刷版代、印刷代、用紙代、製本代など細かい項目まで記載した「詳細見積もり」をもらうのが良いと思います。
というのも「実務に必要な印刷知識」を身につけるための一番早い方法が、「詳細見積もりの費目を読み込むこと」だからです。知識が増えれば、印刷会社に言いくるめられることもなくなります。
逆にいえば、良い印刷会社とは、「詳細な見積もりを嫌がらずに出してくれるところ」といえます。ちなみに協友印刷さんの見積もりはいつも詳細です。ありがとうござます(笑)。
森は、今後も良い漫画雑誌や単行本を作り続けたいく所存です。協友印刷さんには、引き続きご協力いただければと思います。これからもよろしくお願いします。
※取材日時 2015年2月
※取材制作カスタマワイズ