コミティアで発行された同人誌「別冊ZOO」の編集チームである、ハナウタさん、カワウソ祭さんに、印刷をキョウユウに依頼した経緯について、詳しく聞きました。
100ページフルカラーの同人誌の印刷を依頼
- 今回キョウユウにどんな印刷を依頼したのでしょうか。
(ハナウタさん):キョウユウさんには100ページフルカラーの同人誌「別冊ZOO」の印刷を依頼しました。
コミティアやオンラインショップを販路として多少部数に余裕を持って発注しましたが、ありがたいことに初版は完売しました。現在は重版に向け準備を進めています。
本のコンセプト
- 「別冊ZOO」のコンセプトを教えてください。
(ハナウタさん):「別冊ZOO」のコンセプトは「永久保存版タイムライン」です。
Twitter上にはたくさんの魅力的な方がいます。ぐっと引き込まれるような文章を書く方もいれば素敵な絵を描く方、写真を撮る方など表現は様々で、それらが次々タイムライン上に現れるのを見るのはとてもワクワクします。
ただタイムラインは基本的に「流れて、消えていくもの」なので、それらが流れてしまうことはもったいないなと思っていました。そこでTwitter上の作品群をまとめて、ずっと手元に置いて、見たいときに見られるようにする、そんな本を作りたいと思ったのです。
さっそくフォローしている方々に本の趣旨を説明し、寄稿を依頼。みなさん快くOKをくださり総勢28人のメンバーが揃いました。しかし原稿が集まり、編集を重ね、さあいよいよというところで悩みが出てきました。印刷会社をどうするか、でした。
印刷にあたっての悩み
- 「印刷をどうするか悩んだ」とは具体的には。
(ハナウタさん):お声がけした方々の中にはプロとして第一線で活躍する方もいましたし、フォロワーを数万人も抱える方も少なくありません。そういった方々を集めて、しかもとても完成度の高い原稿が揃った。ここまで来たのであれば絶対に製本の部分でつまずいてはいけない、という思いがありました。
「このメンバーを集めて、この本の出来ばえ???」とがっかりさせることはあってはなりません。手にとった人にも寄稿者にも愛着のわく、「永久保存版」の名に恥じない本にせねばと思いました。
私はこういった同人誌を作成することははじめてでしたので、印刷まわりについては前にも同人誌を手がけたことのあるカワウソ祭さんに主導してもらいました。
こだわりたいポイントを絞り込んだ
- カワウソ祭さんに質問です。今回の本作りではどんな点に気を配りましたか。
(カワウソ祭さん):主催のハナウタさんのコンセプトをしっかり汲むことと、自分の意見もふんだんに入れることです。編集スタッフで一緒に「こだわりたいポイントは何だろう」と意見を出し合いました。
ポイント1. 「発色の良いオールカラー」
Twitterを始め、web上で発表される作品はカラーの物が多く、コストの問題でモノクロ表現に縛るのは勿体ないと思いました。また、今回のコンセプトは「永久保存版」なので、絵本のように全てのページに愛着を持ってもらえるよう、オールカラーがいいと考えました。
寄稿作品は、色使いが個性的なマンガ、にじみが美しい水彩イラスト、淡い色調でデザインした短編小説などさまざまです。作者の個性まで読者に伝わるよう、どのページも美しい発色にしたいと思いました。
ポイント2. 「表紙のエンボス」
表紙に入る動物のイラストにはエンボス加工を施したいと考えました。単純に手触りの良さもありますが、動物園の檻をイメージしたストライプの“手前”に動物たちが浮き出している可笑しみも伝われば嬉しいなと思っています。デコボコした加工にはニスの厚盛りなどいくつか種類がありますが、表紙をめくったページ(表2)にも動物のシルエットが浮きだし、冒頭のコピーにかかるようにしたいという意図もあります。
ポイント3. 「B5変形」
A4は大きすぎ、B5はややありきたりな判型です。手にした時にしっくりきて、「愛おしい」と思えるようなサイズを探り、B5の縦幅を少し寸詰まりにした230×182mmの変形サイズにしました。
ポイント4. 「遊び紙の用紙」
表紙をめくった1ページめは、扉を兼ねた写真作品が入ります。写真の柔らかな作風を活かし、また、書籍の「見返し」を意識して、透けそうなほど薄い別紙にしたいと考えました。あくまで「透けそう」な風合いで、トレーシングペーパーのように透けることが前提の紙ではありません。また、薄くてもしっかりインクが乗らないといけませんでした。
ポイント5. 「雰囲気重視の章扉」
執筆者ごとに原則1ページの章扉を設けました。毛色の違う作品を違和感なく読み進められるように、雰囲気を重視して一面ベタ塗りの扉も複数登場します。ベタ塗りは色ムラが出やすく、単純なようで難しい印刷です。コスト重視で紙を薄くしすぎて、裏ページが透けて見えたり、色が移ったりするのは避けたいと思っていました。
印刷会社選びを開始
- 印刷会社はどうやって選んだのでしょうか。
(カワウソ祭さん):印刷会社選びは自分なりに戦略を持って進めました。今回は商業誌のように潤沢な予算は使えませんが、印刷コストを下げることだけでは無く、こだわりが見える仕様にしたいと考えていました。なので、安く・速く対応して頂ける代わりに、イレギュラーな加工の相談が難しい大手の印刷会社は最初から候補にいれませんでした。ネットでいくつか同人誌印刷で有名な印刷会社に見積もりを依頼しましたが、そこも早々に選外になりました。
いい会社はなかなか見つからない
- 何がよくなかったのでしょうか。
(カワウソ祭さん):同人誌印刷を得意とする印刷会社では、印刷知識のない人でも本が作れるように、印刷コースがパッケージで用意されています。なるほど初心者には素晴らしいサービスで、わかりやすく親切なのですが、逆にコースに用意されていない加工は断られてしまったんです。
依頼した仕様で印刷できると返事があった会社でも、見積もりの詳細が無く、希望の予算に近づけるために紙の変更や仕様の調整を細かくご相談することが難しそうでした。そうした理由でそれぞれ見送りました。
キョウユウは、最初は避けていた
- 最終的にキョウユウを選んだ経緯を教えてください。
(カワウソ祭さん):実は、キョウユウさんは「一目置いているけど、遠慮していた」という印刷会社でした。事例も拝見していましたが、ジオラマブックスの森さんや、はしゃさん・ちろさんが、複雑で凝った印刷と加工を依頼した会社として認識していました。
私たちの希望する加工はそこまで特殊ではなく、コストも抑えるつもりだったので、凝った印刷や加工を得意とする会社に依頼するのは、逆にオーバースペックかと気が引けたのです。
だから最初は見積もり依頼を出しませんでした。とはいえ思うように印刷会社が決まらなかったので、キョウユウさんにご相談してみたという流れです。
「うん、ここでいい」と確信を持てた瞬間
- キョウユウにはどのような形で見積もりを依頼したのでしょうか。
(カワウソ祭さん):大まかな予算と仕様の希望を正直に伝えて「この予算でこのレベルの印刷は可能でしょうか。無理な場合、代替案をご提案いただけるでしょうか」とストレートに聞きました。すると、担当の菊地さんからは「まずお会いしてご相談しましょう」とお返事を頂いたので、その時点で「頼れそうだな」と好感を持ちました。
過去に複数の印刷会社さんとのお付き合いがありますが、こちらの要望に対して「こうすればできそうですね」とポジティブに反応してくださるところと、無理や面倒を嫌うネガティブなところの2タイプがあると感じます。菊地さんの対応は、「この紙を使うと、仕上がりはこんなかんじになります。値段も下がりますね。ちなみに別の紙だと…」というように、多くの選択肢を示すものでした。こういう「すりあわせ」ができる印刷会社を探していたんです。
例えば「透けそう」な紙を希望していた扉は純白ロールという包装紙をご提案いただきました。本文はオフセット印刷ですが、予算を考慮してここだけオンデマンド印刷です。本文用紙もバランスのよい紙をご提案いただき、こういったご相談が最初の打ち合わせ1回で進んだので、これ以降キョウユウ以外の見積もりは不要だなと安心できました。
ハードスケジュールが見えていたので、ご迷惑にならないかと心配しましたが、焦る様子もなく引き受けていただき、制作に最大限時間を割くことができました。
(ハナウタさん):コミティア開催当日の朝に会場へ直接搬入していただけたのも、大変助かりました。こうした搬入ルールなどを含めたスケジュールの計算知識は私たちにはないので、心強かったです。
前倒しで納品していただいたサンプルでできばえを確認しましたが、ガッツポーズでした。趣味の本とはいえ、安くない価格を設定しているのですが、恥じずに販売できると思いました。
先輩ユーザーからのアドバイス
- いま同人誌の印刷会社を探している人に向けて「先輩ユーザーからのアドバイス」などあればお聞かせください。
(ハナウタさん):「真剣な遊び」だからこそ、同人誌は印刷にも凝った方が楽しいと思います。個人的な趣味や興味で本を作るムーブメントも、もっともっと盛んになるといいと思います。
(カワウソ祭さん):キョウユウさんのような印刷会社は、初心者向けのパッケージから更に踏み込んだ制作の相談をするのにちょうどいいのではないでしょうか。逆に印刷の知識が豊富でも、先に挙げた搬入ルールなど”同人誌の知識”がない人間も多くいると思いますし、キョウユウさんはそういった面でもやさしくフォローしてくださいます。
菊地さんの人柄なら少部数・少予算でも拒絶することなく、逆に「どうやったらできるか考えてみましょう」という姿勢で接してくださるでしょう。一度問いあわせるのがいいと思います!